お茶のために、大きくて速い船を作ろう!愚行が産んだ帆船「クリッパー」

帆船

こちら記事で紹介したとおり、ウィスキーのカティーサークはお茶を運ぶために活躍したカティーサーク号に由来しています。カティーサーク号は、ティークリッパーと呼ばれるお茶を運ぶための大型帆船でした。
この記事では、ある男たちの「愚行」によりティークリッパーが誕生するまでのお話をご紹介します。

1840年代までの船は、大きいけれど遅いか、速いけれど小さいか、そのどちらかでした。(注1)
小さい船はお茶などの密輸や隠密作戦に使用され、大きい船は大洋を横断する貨物輸送に使われていました。

この2種類しかない世界でしたので、だれもそれ以外の選択肢など想像していませんでしたが、ニューヨークの船荷主ハウランドとアスピンウォールが、中国との茶貿易で財産を築けると見込み、「大きくて速い船」の建設と発注を行いました。
常識はずれの「大きくて速い船」の計画は、周りからは「アスピンウォールの愚行」と揶揄されたといいます。(注1)
しかしながら、彼らが作り上げた船「レインボー号」は、斬新なデザインにより、それまでのスピード重視のクリッパーよりも荷物を積むことができ、大型帆船のように大洋も横断することができ、かつ速い船に仕上がりました。
これが、後にティークリッパーと呼ばれる、中国からイギリスへ速くお茶を運ぶために活躍した船の始まりです。
このようにしてアメリカで作られた「大きくて速い船」に危機感を覚えたイギリスが、その性能を追いかけてクリッパを造船し、冒頭で紹介したカティーサーク号が誕生します。

以前紹介したように、誰もが知る「やぶきた」の品種をつくりあげた杉山彦三郎という人物も、周りからは変人と呼ばれながらも、100年以上前に「やぶきた」という優秀な茶の品種を作り上げました。

ティークリッパー、やぶきた、千利休、などの逸話に触れるたびに、お茶の世界では、周りからは奇人や愚行と揶揄される型破りな偉人たちにより時代が作られてきているのだと感じます。
伝統を守るだけではなく、新しい文化を作っていけるよう、常に挑戦を続けることも大切ですね。

ティークリッパーは、その後「ティーレース」と呼ばれる、イノベーションとロマンに満ちた競技へと発展していきます。
イノベーション、驚き、意地、競争がもたらしたティーレースまでの歴史は、こちらで紹介しています。もし興味がありましたら読んでみてください。

参考:
注1)ビアトリス ホーネガー (著), Beatrice Hohenegger (原著), 平田 紀之 (翻訳) 「茶の世界史―中国の霊薬から世界の飲み物へ」, 白水社, 2010年2月, 170~171ページ

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