ダージリン紅茶の香りを表現する際に使われる「マスカテルフレーバー」という言葉。
この「マスカテルフレーバー」について、「マスカットのような香り」と言う人もいれば、「いやいや、マスカテルはマスカットではなくムスクの香りです」と言う人もいます。マスカットの香りと表現したほうが素直にわかりやすいですし、ムスクの香りと表現にもロマンを感じます。
そこで、この記事では「マスカテルフレーバー」の意味を、英語、ヒンディー語、香気成分の観点から調べて、暫定解を見つけていきます。
まずは、答えから。
ダージリン紅茶のマスカテルフレーバーとは、マスカットの香りを指します。
ダージリン紅茶にはブドウと同じ香気成分も含まれています。
では、答えがわかったところで、調査の背景を説明していきます。
◾️マスカテルの英語の意味に迫る
様々な捉え方をされている言葉について調べるときの第一歩は、辞書を引いてみることです。
ということで、Cambrige Dictionaryでマスカテルの英語「muscatel」を調べてみると、以下のように記載されています。
・A sweet wine made from muscat grapes.
マスカットを原料とした甘口ワイン。
・A type of grape (= a small, round, green or purple fruit), or large raisin (= dried grape) made from this type of grape.
ブドウの一種 (= 小さくて丸い、緑色または紫色の果物)、またはこの種類のブドウから作られる大きなレーズン (= 乾燥ブドウ)。
なるほど。一気にマスカットの香り説が有力になってきました。
では、もう一つのムスクについても調べてみましょう。
Cambrige Dictionaryでムスクの英語「Musk」を調べると以下のように記載されています。
・A natural substance with a strong, sweet smell
強い甘い香りを持つ天然物質
こちらもダージリンの甘い香りを表現する単語としては悪くなさそうです。
しかしながら、マスカテルの語源がムスクという説は、英語の観点からみると、以下の理由により説得力に欠けてしまいます。
・ムスクの英語はMuskで、「ク」は「k」で表現されます。
そのため、仮にムスクが語源の場合、マスカテルは「k」を使用して「Muskatel」と表現されるはずです。
しかしながら、辞書で「Muskatel」を調べても、該当する言葉はありません。
・マスカテルフレーバーについて記載されている英語の文章では「k」ではなく「c」を使用した「Muscatel」が使われています。
「Muscatel」を辞書で調べると、上で記載したように、マスカットの香りという説が有力になります。
以上が、マスカテルを英語の観点からみた見解です。
しかしながら、ムスク説のロマンもまだ捨てきれません。
ダージリンはインドの紅茶ですので、ヒンディー語にヒントがあるかもしれません。
もしかしたら、ヒンディー語ではムスクのことをマスカテルと呼ぶとか、そういった一撃があると、話が全く変わってきます。
ということで、調べてみました。
◾️マスカテルをヒンディー語で調べてみる
私達はヒンディー語は全くわからないので、弊社のインドチームに「マスカテルフレーバーについて調べているんだけど、語源となるようなヒンディー語はある?そもそも、マスカテルフレーバーの定義についてヒンディー語で公式文章は発表されていない?」と聞いてみました。
いきなりインドチームの話が出てきて混乱している人は、以下の記事を覗いてみてください。
上記の質問に対して、「ヒンディー語で調べてみたけど何も情報なかったよ」という答えが返ってきました。
ヒンディー語からマスカテルの語源に迫るロマンに期待していたので、この答えには落胆しました。。
ただ、期待していたものとは違えど、また少しだけ核心に迫ることができました。
いままでの調査をまとめると、マスカテルの語源はヒンディー語ではなく英語で間違いなさそうで、英語の観点から見るとマスカテルはマスカットの香りという説が濃厚です。
香りのことを言語の観点からのみ議論しているということに違和感を覚えた方もいるかもしれません。
香りのことは香りそのものを調べて初めて核心を突くのではないか、と。全くその通りです。
ということで、次の調査に取りかかります。
■マスカテルフレーバーの香気成分を調べてみる
香りを具体的に理解するために、ダージリン紅茶やマスカテルフレーバーの香気成分について調べてみました。
マスカテルフレーバーに関する論文を探してみると、非常に多くの研究者の方々が論文を書いていました。
さすが、ダージリン紅茶の香りが人を引き付ける魅力というのはすごいですね。
それらの論文の中で、香気成分についてこのような記載をみつけました。
The aroma concentrates from Darjeeling tea primarily consist of high levels of linalool
oxides I, II, III, IV, linalool, geraniol, benzyl alcohol, 2-phenylethanol, methyl salicylate,
hexanoic acid, (Z)-3-hexenoic acid, (E)-2-hexenoic acid, t-geranic acid, dihydroactinidiolide,
N- ethylsuccimide, 2,6-dimethy1-3,7-octadiene-2,6-diol, and 3,7-dimethy1-1,5,7-octatrien-3-
01. The last two components have apple-Muscat grape like flavor and fresh greenish aroma,
and contribute to Darjeeling Muscat grape flavor.
参照: Michiko Kawakamil , Scion Sarma2 , Kyoko Himizul , Yuko Konishil , and Akio KobayashiI,
「AROMA CHARACTERISTICS OF DARJEELING TEA」
ダージリン紅茶の香気成分を調べたところ、様々な香気成分が見つかり、そのなかの「3,7-octadiene-2,6-diol」と「3,7-dimethy1-1,5,7-octatrien-3-01」という香気成分がアップルマスカットグレープのような香りやフレッシュグリーンの香りを持っていて、それらがダージリンのマスカットグレープの香りに貢献していると書かれています。
ダージリン紅茶は、アップルマスカットグレープの香気成分をもっているとのことです。
核心に迫ることができた気がしませんか?
香気成分の観点から調べてみても、マスカテルフレーバーはマスカットの香りという説は非常に濃厚です。
◾️マスカテルフレーバーに関する調査のまとめ
以上の調査をまとめると、英語、ヒンディー語、香気成分の観点から、マスカテルフレーバーはマスカットの香りです。
しかしながら、マスカテルフレーバーの語源はムスク説というのは、なにか不思議な魅力がありますよね。
お茶の香気成分は非常に複雑ですので、今回の調査では見つけることができませんでしたが、もしかしたら、ダージリン紅茶の香気成分にムスクの香気成分が混ざっている可能性もあります。そうすると、ムスク説も筋違いではなくなりますね。
その場合、今回調べた英語の観点からいうと、Muscatel Flavor(マスカテルフレーバー)ではなく、Msuk Flavor(ムスクフレーバー)になりそうです。
マスカテルフレーバーに関する調査はここで一旦終了とします。
もし別の情報をお持ちのかたがいらっしゃいましたら、私たち(hello.japan@load-road.com)までご連絡ください。
マスカテルフレーバーの核心を突くべく、一緒に調査をしましょう!
参照: Michiko Kawakamil , Scion Sarma2 , Kyoko Himizul , Yuko Konishil , and Akio KobayashiI,
「AROMA CHARACTERISTICS OF DARJEELING TEA」
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